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定池

石川県

商品のこと

漆芸の可能性を視覚化する

「伝統工芸=古い、重い」をぶちこわせ!

伝統工芸は、そもそも、それが成立した時代には、最先端技術でした。それが、現在では、その時代のまま維持することに意味があるということになってしまい、結果、古いのが当たり前、昔のまま進化していないのが当たり前となってしまいました。このことは、それ自体に全く意味がないわけではありませんが、少なくとも市場とは何の関係もなかったため、伝統工芸は徐々に産業としての力を失うこととなりました。これに対して、作品作りを通して、伝統工芸が本来持つ、研ぎ澄まされた先端技術という面を現代に蘇らせることが、「定池SADAIKE」projectの目指すものです。

カブトムシに込められた思い

展示作品の「阿修羅(黒)」は、乾漆という技法で製作されています。乾漆という技法は、脱乾漆、脱活乾漆とも呼ばれますが、作成したい型に麻布などを巻きその上に漆を塗り重ねることで型どおりに漆芸作品を仕上げる技法です(型は製作途中で抜き取ります)。有名な乾漆作品としては、国宝の「阿修羅像」(奈良・興福寺)があります。

この乾漆技法は、大きな作品に向いており、細かい細工には向かないとされてきましたが、我々は、実物大のかぶとむしを乾漆で作り上げることに成功しました。先人が生み出した技術で先人が挑んだ作品を超えるものを生み出すことを目指し、それを実現したのです。この作品をご覧下さっている皆様は、いにしえ人も目にすることができなかった作品を目にしていらっしゃるのです。

「定池SADAIKE」project最初の作品にカブトムシを選んだのは、乾漆という技術で自然界にある美しい造形を再現したいと考えたからです。人間がデフォルメしたものではない、ごまかしのきかない造形に挑むために、自然界にある美しい造形である昆虫の中からさらに最も日本らしい昆虫であるカブトムシを選び、忠実に漆芸として再現しました。

今までにない製作チーム

本作品は、仏壇蒔絵師である定池隆志がこれまでの経験のすべてを集約して構想から8年の年月をかけ完成させました。また、そのデザイン及び作成指揮は、株式会社大副アートディレクターの大友信秀(金沢大学法学系教授、博士(法学・東京大学)、経営コンサルタント、デザイナー)が担いました。

漆芸の経験を全く有しない大友は、乾漆技法の常識の外側からデザインを行い、これに対して、職人の定池は、常識の内側から、これまでの常識を超えた乾漆技法の採用に挑み、常識の外に飛び出して形にしてきました。ここには、漆芸という技術そのものへの挑戦があるとともに、高度な技術を持つ定池の力を大友がプロデューサー・デザイナーとして引き出すという、これまでにない製作モデルの構築という点への挑戦もありました。

このチームにより製作された「阿吽」は、第3回世界工芸トリエンナーレ、国際漆展・石川2017という伝統工芸アートの公募展で入選するまでに至りました。

ものづくりのこと

「用の美」を極め、その先へ

漆と金沢の縁

漆は製作過程で、塗っては乾かすということを繰り返しますが、実は、乾くといいながら乾くのではなく硬化するのであり、実際に漆を硬化させるための化学変化には、乾燥ではなく、一定の湿度を必要としており、金沢の一年を通して湿度に恵まれた気候は漆芸にとってまたとない環境なのです。

職人の定池は、仏壇蒔絵師の三代目として生まれました。祖父と父の仕事を見ながら育ち、自らも輪島漆芸技術研修所を経て蒔絵師として経験を重ねてきました。家族と自分自身が金沢という地に根ざしてきた歴史を背負っています。

大友は、15年前に金沢大学法学部に赴任したことから、地域と関係を持つ中で伝統工芸に触れ、その事業としての困難な状況を理解しました。「定池SADAIKE」projectは、定池と大友の偶然の出会いがなければ存在しませんでした。そして、この二人の出会いを可能にしたのが、ここ金沢の地だったのです。

「用の美」からの脱却

伝統工芸は、その時代、その時代の先端技術であり、食器等の日用品に活用されてきました。そのため、より使いやすく、また、使う用途に合わせたデザインへと工夫されてきました(いわゆる「用の美」と呼ばれる美しさ)。このような伝統から、伝統工芸作品には、「箱物であること」したがって、作品にはふたがなければならないというような縛りが存在しています。このことは、ときによって、伝統工芸作品のデザインをマンネリ化させ、退屈な時代遅れのものという印象を与えてしまう原因にもなっています。

我々は、職人定池の経験を十分に活かし、「用の美」が生み出してきた伝統を理解した上で、その美的センスを特定の用途を持たないアート作品に昇華させ、技術的に極めて高度な漆芸の技をより鋭敏に感じてもらえるよう作品作りをしています。

 

作品づくりへの思い

本作品は、「定池SADAIKE」の挑戦作です。現在製作しているすべての作品は、本作品から始まりました。本物に極限まで似せた原色のカブトムシと黒漆を主体に螺鈿をほどこしたカブトムシと赤漆を主体に溜の技法をほどこしたカブトムシという3体がカブトムシという形を通して3通りの表現を見せるという意味で、「阿修羅」と名付けたものから「黒」をご紹介するものです。

これらに続き、「阿吽」という作品が2017年の世界工芸トリエンナーレと国際漆展に入選しました。赤漆の立方体(正六面体)の一角から今まさにカブトムシが飛び立とうとしている様を表現した「阿」と漆黒の球体に同色のカブトムシが留まっている様を表現した「吽」を一対とした作品は、「阿」がカブトムシによる「動」とその動を生み出すために土台として安定した立方体が表す「静」、「吽」が球体という不安定なものが表す「動」とその上に静座するカブトムシが示す「静」という「作品同士が常に反対の表現を示しながら、作品内にも同様の反対の表現が備わっているという、『万物の輪廻』を表現しています。「阿吽」に表現された飛び立つ瞬間のカブトムシや球体に静座できるカブトムシは現実世界ではほぼ見ることとはできません。このように、現実には見られないものを目の前に提示してご覧下さる方々それぞれの感性を刺激することも我々の狙いです。

上述の作品に続き、現在公表準備に入っている作品があります。こちらは、「用の美」が生み出した漆芸の魅力を作品に取り込みながら、アートとしての表現としか感じないものに仕上げることができたと自負する作品です。引き続き、漆芸の伝統を温ね、精進していきたいと思います。